〔弁護士 北岡秀晃〕
「広島と長崎は、核戦争の夜明けではなく、私たちの道義的な目覚めの始まりであるべきです。」
広島の平和記念公園におけるオバマ大統領の演説の結びです。アメリカ大統領としての実際の行動はともかく、心を打つ格調高いスピーチです。表面的で、言葉を並べただけのように聞こえる安倍首相の演説とは大きな違いでした。そして、中国の王毅外相は、「広島は注目されるべきだが、南京も忘れてはならない。」と語ったそうです。
ドイツ東部の古都ドレスデンは、第2次大戦の末期、連合国軍によって無差別爆撃を受け、市街地の85%が破壊され、2万5000人にのぼる一般市民の犠牲者が出ました。2015年2月13日、犠牲者を追悼する70周年の式典で、式辞を述べたガクウ大統領は、「私たちは、ドレスデンでおびただしい死者を出した戦争を、誰が始めたのかを知っています。そして、それゆえに、私たちはいまここでドイツ人の犠牲者を追悼するとき、ドイツが行った戦争による膨大な他国の犠牲者を決して忘れてはなりません。」と述べたそうです(森英樹先生の「大事なことは憲法が教えてくれる」より)。
王毅外相の大人げない感情的とも言えるコメントはともかく、ドイツのガクウ大統領の言葉は、私たちが過去と向き合うとき、忘れてはならないものを教えてくれているように思います。
そういえば、広島の平和記念公園の慰霊碑には、「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」と刻まれています。この「過ち」の主語が誰を指すかについては論争があったそうですが、この碑の前にぬかずく一人ひとりが深く心に誓うことが平和への道だというのが、自らも被爆者であり、この文章を撰文・揮毫した雑賀忠義広島大学教授の言葉だそうです。
また暑い夏を迎えます。