〔弁護士 北岡秀晃〕

September 11といえば、2001年9月11日朝(現地時間)のアメリカ同時多発テロを思い起こされると思います。ワールドトレードセンタービルにハイジャックされた航空機が突入し、2棟の高層ビルが相次いで崩壊した映像は、今も目に焼き付いていることでしょう。

日本時間の2001年9月11日は、私が弁護士になって間もないころから弁護団を結成し取り組んできた吉野桜ゴルフ場差止め訴訟の和解が成立した日でした。吉野山の真横の山に計画されたゴルフ場建設に反対し、地元住民らが中心となって起こした差止め訴訟は、奈良地方裁判所葛城支部が、開発による流量増加による水害のおそれがあるとして、人格権に基づき建設工事の差止めを命じました。日本の裁判所がゴルフ場建設の差止めを認めた判決は、これが第1号です。その後、業者側が控訴し、大阪高等裁判所において、ゴルフ場建設をしないことを約束する和解が成立したのが9月11日でした。和解後、住民や支援をいただいた学者さんらを交えて祝勝会を行い、夜遅くに帰ったときにテレビで見た光景が、あの同時多発テロの映像だったという次第です。

あれから20年という期間が過ぎました。リゾートゴルフ場開発の嵐は遠く過ぎ去り、産廃処分場などに対する規制も強化されました。今、各地で問題になっているのは、大規模ソーラーパネルの設置や残土の盛り土問題などでしょうか。他方、福島第一原発の事故で原発を巡る状況は大きく変わりましたが、あいかわらず原発ゼロへの道は不明確です。温室効果ガスの削減が求められる中で、日本では石炭火力発電所の新設が相次いでいます。この夏、世界各地で豪雨による水害が相次ぎ、ドイツやアメリカのリーダーは、気候変動に対する対策の緊急性や「気候危機」を訴えましたが、日本のリーダーは、災害の復旧・復興に取り組むことを表明しますが(それは大切なことではありますが。)、気候変動への切迫した危機感を訴える姿勢が弱いように思えます。20年、確実に変化はありますが、歩みはゆっくりです。

同時多発テロから20年、アメリカ軍はアフガニスタンから撤退し、アフガニスタンは再びタリバンが支配する国に戻るようです。宗教の違いを超え、自由や平等というアメリカの価値観を根付かせることは、その価値観が正しいものであったとしても、軍隊を駐留するという方法では、何十年かけてもできないことを示しているように思います。それでも、全く20年前のタリバンが支配するアフガニスタンに戻る訳でもないでしょう。少しでも、前に向いて進んでいくことを祈りたい気分です。