〔弁護士 藤澤頼人〕
うちの家のことですが、蜘蛛がいます。
アシダカグモ、ユウレイグモ、あと、名前のわからない蜘蛛までいろいろいます。
この夏前くらいから、お手洗いにその名前のわからない蜘蛛が住み着いて巣を作りました。
よくある同心円状の巣ではなく、立体的なネット上の巣です。
体の大きさは現在のところ、手足を含めて大体2㎝ほどです。
お手洗いですので、用を足すときに毎日見ているのですが、この蜘蛛は狩りの名人らしく、家の中に入り込んできたコバエやショウジョウバエをよく捕まえて食べています。
最初体が小さかったのですが、どんどん育って、脱皮したらしい抜け殻が壁に大小4つくらいくっついています。
ということは、この居場所からほとんど動いていないということでしょう。
巣の場所が、お手洗いの隅の絶妙な位置に作ったので用を足す邪魔にならず、私がそのままにしていたこともあるでしょう。
9月頃のことですが、育ったお腹がまん丸になるくらいにまでなっていました。
卵を産むのかな、ここで産んだらちょっと邪魔だなと思っていたところ、ある晩、いつもその蜘蛛が狩りの待機場所にしている位置にも、また巣のどこにもいませんでした。
秋になって、涼しくなったので引っ越したかな、と思って少々寂しく思っていると、その翌日、またあらわれました。
予想どおりというか、お腹がだいぶ小さくなっていました。
しかし、その蜘蛛は何事もなかったように狩りにいそしんでいました。
私としては、どこに卵を産んだんだろう、お手洗いが占領されると困る、と思っていたところ、意外な展開が待っていました。
3日ほど前、夜、用を足しに行くと、いつもの場所にいつもの蜘蛛がいたのですが、その巣に少しサイズの小さいもう一匹の蜘蛛が増えていました。
何が起こったんだろう、と思って見ていると、元の住人が新人の方に寄って行きました。
あ、これ新人が食べられてしまうのか、それもまた自然の掟なのか、と思ってさらに見ていると、なにやら二匹が頭を付き合わせた後、また元の住人の方が元いた位置に戻っていきました。
あれはなんなんだったのだろうと思ってしばらく見守ることにして見ていると、その数分後、また、元の住民が新人に寄って行きました。
ところが、また頭を付き合わせただけで元の位置に。
いったい何をしたいんだろう、と思ってさらに見守ることにした所、やはり数分後、また二匹が顔を突き合わせ。
よく見てみると、どうやら二匹とも口元の触覚のようなものを伸ばしてピコピコと触れあわせているようです。
それがしばらく続いて、また二匹が離れました。
これが何度か続いたのですが、私はその後、いつまでも付き合っていられないと思いお手洗いを出ました。
翌日、用を足しにお手洗いに行くと、昨日の新人と思われる蜘蛛が、元の住人の巣の横に自分の巣を張ってしまっていました。
私に非常に邪魔になる場所にも糸がしっかり張られています。
私は、さすがに邪魔な場所の巣は遠慮無く払うことにしていますので、その部分の糸を撤去しました。
新人も元の住民も隅に隠れて縮こまっていました。
その夜、お手洗いに行くと、新人の姿はありません。元の住民も一人で狩りをしていました。
もしかすると、私は、蜘蛛の恋路を邪魔してしまったのかも知れません。